友「そろそろ就活の時期だし、俺らも適職診断ってのやってみないか?」
男「面白そうだな」
友「えーと、俺は営業マンとかが向いてるってさ。お前は?」
男「俺は……芸術家タイプだった」
友「あっ……」
男「あっ……ってなんだよ」
友「い、いや! 合ってるんじゃないかな?」
男「だよな! 芸術家か~、なるほどな~、考えたこともなかった!」
……
友(やっと内定取れた……これで一安心だよ)
男「よう」
友「おう。就活どう?」
男「やってない」
友「そうなの? 俺なんかやっと内定取れてさ……え? やってない?」
男「うん」
友「な、なんで?」
男「俺、本格的に芸術家目指しててさ。就活やってる余裕ないんだよ」
友「……!」
いつも芸術家とか探検家タイプだったわ
友「芸術家ってどういうの目指してるんだ?」
男「とりあえず、絵画と彫刻の勉強してる」
友「へえ、塾みたいなのに通ってるの?」
男「ううん、独学で」
友「ど、独学……」
友(いきなり二兎を追ってる上に独学……死亡フラグすぎる)
男「今日も家帰って、絵を描くんだ。それじゃあな!」
友「う、うん……」
友(まあ、一時的な熱中にすぎないだろう……きっとそうだ)
……
友「久しぶり!」
男「よう」
友「たまには連絡しろよ~」
男「色々忙しくてな」
友「忙しいといや、卒論やった?」
男「いや……」
友「マジ? だったら急がねえとやべえぞ。俺なんて無理矢理文字を水増しして……」
男「そもそも書くつもりがないんだ」
友「は?」
友「それじゃ卒業できねえじゃん!」
男「ああ、しない」
友「しないって……じゃあどうすんの?」
男「大学は中退する」
友「ええっ!? 四年間通ったのに!?」
男「ああ、大卒なんて肩書きを手に入れても何の役にも立たないだろうしな」
友「いや結構立つと思うけど……辞めてどうすんだよ!?」
男「フランスに行く」
友「フランスぅ!?」
男「芸術の都パリに修行に行くんだ!」
友「えええ!?」
男「芸術といえばパリ、パリといえば芸術だからな。パリが俺を呼んでいる!」
友「パリに行く費用は……?」
男「今までの貯金を全部はたいて行くよ」
友「親はなんて言ってるんだよ?」
男「猛反対されたさ。だが、俺に相応しいのは芸術家である以上、誰にも俺を止められない!」
友(誰か……止めてあげて……)
男「いざパリ!!!」
キーン……
友「……」
友「本当に行っちゃった……パリに。止められなかった……」
友「だけど、世の中こういう行動力がある奴が成功するし、案外成功するかも……?」
友(なんて思ってもいない独り言を言うのはやめよう)
…………
……
……
プルルルル…
同僚「おーい、○○工業から電話!」
友「お電話ありがとうございますー!」
友「あ、はいっ! すぐやります! 申し訳ございません!」
課長「いいかね、君は来る仕事をただこなしてるだけなんだよ。もっと工夫したまえ」
友「はい……」
友(あー……今日も疲れた。社会人ってキツイなー……)
-5日後-
ニュース「フランス・パリで日本人男性1人の遺体が見つかりました。
警察は男性の死因を特定しているという事です。」
友「……」スタスタ
友「!(あれは……間違いない!)」
友「おーい!」
男「あっ!」
友「久しぶり! フランス行くところを空港で見送りして以来だな!」
男「ああ……」
友「時間あるか?」
男「うん、平気……」
友「じゃあ、ちょっとそこのカフェで話さないか?」
男「営業マンになったのか」
友「毎日ノルマに追われて、怒られてばかりで大変だよ。お前は?」
男「芸術家を目指してる……けど」
友「けど?」
男「あれこれコンクールに応募してるけど全然ダメ。全く引っかからない」
友「そうか……」
男「でも、芸術家になる夢を諦めたわけじゃない。いつか夢を叶えてみせるさ!」
友「……」
友(もう現実を見た方がいい、とは言えんわなぁ……)
……
司会「それでは新郎新婦の入場です!」
友「みんな、どうもありがと~!」
妻「ありがとうございます!」
ワーワー…
シアワセニナレヨー
ウラヤマシイゼー
ワーワー…
友(嫁さんはもうすぐ赤ちゃん産まれる身だし、今日はコンビニ弁当で……)
男「しゃっせー」
友「あっ……」
男「あっ……」
友「連絡途絶えたと思ったら……コンビニでバイトしてたのか」
男「ああ」
友「芸術家は?」
男「諦めてないよ。バイトしつつ、その金で生活して作品作って、色んなとこに応募してる」
男「落ちまくってるけど」
友「そっかー……」
友「あ、あのさ……」
男「ん?」
友「お前が芸術家を目指すようになったのは、元は俺が勧めた適職診断が原因だよな?」
男「まぁ、そうかもな」
友「あれの芸術家タイプってのは、実は……」
男「……知ってるよ」
友「え?」
男「別に、本当に芸術家に向いてるわけじゃないってんだろ?」
男「それぐらい、ちゃんと調べて気づいてたさ」
男「もしかして、俺が芸術家ルートに入っちゃったのは自分のせいだって気にしてたとか?」
友「うん……まあ」
男「俺が芸術家を目指すのはお前のせいじゃない。俺の意志だ」
男「だから気にすることないんだよ」
友「……すまない」
男「ハハ、だから謝るなって」
友(俺はずっとこいつを勘違いしたまま突っ走ってるだけの奴だと思ってた)
友(だけどそうじゃなかった。ちゃんと自分で険しい道と知りつつ、その上で走ってたんだ)
友「お前が普通に就活してたらどうなってたかなぁ」
男「うーん、どうなってただろうな。案外成功してたか、あるいはあの診断通りになってたか」
男「経験しなかったからこそ、なんだか輝いて見えるよな。就活を頑張ってる学生たちってのは」
友「そういう風に見えるもんか。俺にはあんな時期もあったな程度にしか見えないけど」
男「こればかりは経験しちゃうとかえって分からない感覚なのかもな」
男「あそこを歩いてる学生たちなんかほら、俺の目には……ダイヤモンドみたいに……」
友「ふーん……」
男「……」
友「どうした?」
男「すまん! 話中断!」
友「え!?」
男「ごめ~ん、急に体調悪くなっちゃって……悪いんだけど早退していいかな?」
バイト「マジすか? 別に客いないしいいすけど……」
男「ってわけで、また今度な!」
タタタッ…
友「……!?」
友(突然どうしたんだ……!?)
男(猛烈な創作意欲が沸き上がってきた!)
男(俺の就活生に対する様々な想い……)
男(このキャンバスにぶつける!)
サラサラ…
ヌリヌリ…
……
……
男(うん……できた!)
審査員A「うーむ、すごい絵が出てきましたな」
審査員B「ええ、就活へのあくなき憧憬がビンビン伝わってくる」
審査員C「今回の大賞は……満場一致でこれに決まりですな!」
≪リクルートスーツで歩く学生達≫
第XX回全国絵画コンクール 最優秀賞決定!
それからというもの――
絵画≪笑顔の就活生≫
彫刻≪面接を受ける学生≫
絵画≪説明会会場≫
「どの作品も熱がこもってる」 「ううむ……こんな才能が世に隠れていたとは」 「とんでもない芸術家が出てきたものですな」
友「今日は天気がいいなー」
娘「パパとおさんぽ、たのしいー!」
友「パパも楽しいよ」
友「……」スタスタ
友「!」ピタッ
娘「パパ? どしたの?」
友「ちょっとあそこに寄って行こうか」
娘「びじゅつかん?」
友「うん。パパの友達が個展を開いてるんだ」
男「やあ!」
友「久しぶり! こっちは娘だよ」
娘「こんにちはー!」
男「こんにちは。今日は楽しんでいってね」
友「活躍は聞いてたが……立派になったな」
男「ああ……何とか芸術一本で食ってけるようになったよ」
友「どうだ? パパの友達の作品は?」
娘「これが好きー!」
≪一生懸命メモを取る学生≫
友「いい表情した彫刻だな。必死さが出てる」
男「あちこちの就活に関連した会場を取材したからな。彼らの頑張りがそのまま俺の燃料になってるんだ」
男「就活を頑張ってる姿は……美しい! これからも俺は就活をテーマにした作品を作り続けるよ!」
友「……」
友「お前は就活のために適職診断をやったら、芸術家タイプだったわけだけど……」
友「お前の適職は“就活の芸術家”だったんだな」
おわり
乙